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高知地方裁判所 昭和29年(行)11号 判決

原告 有限会社梅原商店

被告 高知県

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(壱)申立並びに主張

原告訴訟代理人は、被告が訴外梅原友一に対する県税第壱種事業税の滞納処分として、高知局弐千六拾壱番電話加入権に対して為した差押処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求めその請求の原因として、

(一)  被告は、訴外梅原友一において被告に納入すべき昭和弐拾七、八両年度分の第壱種事業税につき合計拾万弐千八百四拾円の滞納ありとして、右金額並びにこれに対する延滞過怠金弐万七千百八拾円を徴収するため、昭和弐拾九年拾月壱日右訴外者の同族会社である原告に対し、右訴外者が出資していることを理由としてその所有に係る高知局弐千六拾壱番電話加入権の差押処分をした。

(二)  ところで、右差押処分の根拠法令たる地方税法第拾壱条の弐の第壱項は、同族会社に対する出資者の滞納税金は、同項所定の場合には同人の有する株式又は出資の価額を限度として、当該同族会社に納付させることが出来ると規定しているが、同条第五項は、右第壱項所定の出資の価格は第一項の処分をする時における当該会社の資産の総額から債務の総額を控除した額をその株式又は出資の数で除して得た額を基礎にして計算すべき旨定めており、そして、右の「処分をする時」とは、同族会社に対して滞納処分をする時を指称するものと解すべきである。これを本件についてみるに、本件滞納処分の日時たる昭和弐拾九年拾月壱日当時、原告は、その積極財産より消極財産が多い状態であつたから、同条第壱項に所謂右梅原の原告に対する出資の価額は、前記同条第五項所定の計算方法によつて算定するときは無価値である。即ち、原告に対する出資総額は参拾五万円、出資数は参百五拾口で、右のうち前記梅原友一の出資額は五万円、出資数は五拾口であるが、原告は、損益計算上昭和弐拾八年九月壱日から同弐拾九年八月参拾壱日迄の間に於ては拾六万五千七百七円五拾五銭の、同年九月壱日から昭和参拾年四月参拾日迄の間に於ては参拾四万五拾六円の夫々欠損を出している状態にあるので、前記法条による計算によると、梅原友一の出資の価額は、無価値ということになるのである。

してみると、原告は、その出資者である訴外梅原友一が被告に対して納付すべき本件滞納税金等を被告に納付すべき義務は全くないものというべきである。

(三)  仮に、地方税法第拾壱条の弐第五項に所謂「第壱項の処分をする時」とは、同族会社に対して同条所定の納付通知書を交付する時を意味するとの被告主張の見解が正しいとしても、右に所謂納付通知書が原告に送達された昭和弐拾九年参月弐拾八日頃においても、原告は、その資産の総額よりも、債務の総額が多い状態にあつたから、原告が前記訴外者の滞納税金等を納付すべき義務はない。

(四)  以上いずれの点よりみるも、訴外梅原友一の本件滞納税金等につき何等納付の義務なき原告に対し、その納付を命じ、これを納付しないからとしてなした本件差押処分は無効である。

と述べた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

原告主張の(一)の事実は認める。(二)の事実中、被告のなした本件差押処分の根拠法令が地方税法第拾壱条の弐であること、原告の出資総額、出資株数、原告主張の期間における原告の欠損金額並びに訴外梅原友一の原告に対する出資額および出資口数が、いずれも原告主張のとおりであることは夫々認める。その余の事実は全部否認する。(三)の事実は否認する。と述べ、

なお次のとおり主張した。

原告の本訴請求は、地方税法第拾壱条の弐の誤解に由来するもので失当である。即ち、その第五項に所謂出資価額の算定時期たる「第壱項の処分をする時」とは、同条第壱項の規定によつて同族会社に納税義務を負担させる処分をする時、即ち、同族会社に対する同項に基く納付通知書発付処分の時を指称し、原告主張のように、同族会社に対する差押処分をする時を指称するものではないと解すべきである。かく解すべきことは、同条第五項の「第壱項の株式又は出資の価額は同項の処分をする時」との文言自体から明瞭であるのみならず、一般に同族会社といえども出資者個人の税金を身代りして納税すべき義務は存しないのであるが、同条第壱項の場合に限り、納付通知書が右会社に交付されるときは、右会社に右納税義務が発生するからである。

そして又、同条第五項の「当該会社の資産の総額から債務の総額を控除した額」即ち当該会社の純資産は、原告主張の如く、当該会社の自主的計算に基いて計算さるべきものではなくて、前述の納付通知書発付処分をなす当時の時価を基本として計算さるべきものである。即ち、原告の自主的になす計算は、一応尊重すべきものであるとわいえ、それは、原告のとる態度如何によつては、種々雑多な様相を示すものであるから、必ずしも税法上の基準とわなしがたく、従つて、前記法条に所謂同族会社の純資産額とは、公平・明瞭・確実・普通を要求するところからでる条理解釈からすれば、当然時価によつて計算したそれを指称するものと解すべきである。

ところで、被告が原告に対し本件納付通知書を交付した昭和弐拾九年参月弐拾八日当時における原告の総資産の時価(四百七拾四万七千六百拾四円弐拾銭)から債務の総時価(参百七拾五万八千六百参拾五円参拾五銭)を控除した場合の純資産の金額は、九拾八万八千九百七拾八円八拾五銭となるから、前記法条所定の計算方法によつて算出される訴外梅原友一の原告会社に対する出資価額は壱口につき弐千八百弐拾五円となり、従つて合計拾四万壱千弐百五拾円となる。故に、右価額の限度内に於いて右訴外者の本件滞納金および延滞過怠金合計拾参万弐拾円の納付を求めるためなした本件差押処分には、原告主張の如き違法はない。以上。

(弐)証拠〈省略〉

理由

被告が、訴外梅原友一に於いて原告主張の各年度の第壱種事業税につき、原告主張の金額の滞納ありとして、右滞納金並びに原告主張の延滞過怠金を徴収せんがため、地方税法第拾壱条の弐に基き、原告主張の日に、原告の所有にかゝる原告主張の電話加入権の差押をしたこと、原告が右梅原友一の同族会社であること及び右梅原が原告に対し原告主張の出資をしていること、原告の出資総額並びに出資口数が原告主張のとおりであることは、いずれも当事者間争がない。

そこでまず、地方税法第拾壱条の弐の第五項の法意につき案ずるに、同項に、所謂「同項の処分をするとき」とは、被告主張の如く、同族会社に対し納付通知書を交付する時を指称するものと解すべきことは、同項の文理上明らかであり、そしてまた、同項の「当該会社の資産の総額から債務の総額を控除した額」即ち同族会社の純資産額とは、客観的に正当な時価を標準として計算されたそれを指称するものと解するを相当とする。

ところで、被告が原告に対し、訴外梅原友一の本件滞納金に対する納付通知書を発付したこと並びに右通知書が被告主張の日頃に原告に到達したことは、いずれも当事者間に争いがなく、又、証人筒井友治の証言により真正に成立したものと認める乙第五号証、同第七号証、成立に争いなき乙第四号証、同第八号証および右証人の証言並びに証人水田八重次の証言中「乙第五号証壱枚目裏の貸借対照表は昭和弐拾九年参月弐拾八日現在の原告会社の試算表を基にして筒井氏が作つたものと思う」旨の部分を綜合すると、被告は前記納付通知書発付の頃原告の純資産(資産の総額から債務の総額を控除したもの)の調査を、当時の客観的な時価をその計算の基準としてなしたこと、右調査によつて判明した右純資産額が被告主張のとおりであることが夫々認定でき、そして、右純資産額を冒頭認定の原告の出資の数で除して得られる出資者梅原の出資壱口の価額並びに右梅原の有する出資総価額は、被告主張のとおりであることは、算数上明らかである。証人水田八重次は「被告は原告会社所有の土地を百六拾万円と評価して、これに基いて原告会社の純資産の評価をしているが、右土地を右価格にて評価することは、正当とは考えられない。原告会社は資産と負債の差引きで資産の多くなつたことは一度もない」旨の供述をしているが、被告の右土地に対する評価は、前記乙第五号証、同第七、八号証および証人筒井友治の証言を綜合すると、右土地中、高知市南播磨屋町の分については、高知相互銀行の評価に、又、南与力町の分については、登記価格に、夫々基いてなされたものであることが認められ、而して、銀行の評価額並びに登記価額が、所謂取引価額より低いことは公知の事実であるから、右水田の証言は採用しがたく、而して、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。もつとも、原告がその主張の期間にその主張の如き欠損を出していることは、当事者間争がないが、右事実をもつて直ちに地方税法第拾壱条の弐第五項に所謂会社の純資産額(資産の総額から債務の総額を控除した額)が零になるものとの原告の主張の採用すべきでないことについては、こゝに多言を要しないであろう。

してみると、訴外梅原の有する原告の出資の価額拾四万壱千弐百五拾円の限度内に於ける被告の原告に対する納付履行請求のためなされた本件差押処分には、原告主張の如き瑕疵はないものというべきであり、従つて、これが無効であるとの確認を求める原告の本訴請求は、これを棄却すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八拾九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安芸修 井上三郎 中谷敬吉)

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